
その中の1足

SAION の内羽根プレーントゥ ブラック
パターンオーダーで底付けはマッケイ。
革はイルチア社の「OSAKA MOCS」という革で、大阪の名前がついているが理由はわからない。
この靴はカビこそ生えていなかったが、カビ靴の隣にあったし、すごく埃をかぶっていたから手入れをした。
最近全く履いていなかった。
履く場面がなかったといった方が正しい。
雨の時は絶対履かない、冠婚葬祭がない、
仕事では茶系のパンツが多いので黒は合わない・・・・などの理由。
履き心地も革もとても気に入っているのに、履いていなかった。
こういうこともあるのだ。
いつかは2足目を作りたいと思いながら時が過ぎた。
注文しなかったのは、たくさんのバックオーダーを抱えて、納期が半年を超えるようになったからだ。
大人気。そりゃそうだ。
底付けがマッケイというだけで、あとはほとんど手作り。
足に合わせて木型を調整し、革もインポートの質の良いものを使って4万円そこそこ。
一度に何足も注文する人が結構いたそうだ。
忙しすぎて、ブログの更新もままならなかった。
ところが・・・・
いつの間にか、ABCマート銀座店から姿を消していたそうだ・・・・・・。
ABCマートがビスポークをする、という話を聞いて驚いたことがある。
ABCというと、私の中では、大量販売・大量消費の代表のような存在だったからだ。
また、英国靴のホーキンスを自社ブランドにして大量生産ブランドにしてしまったり、ダナーの廉価版を大量販売したりして、いわゆる本格靴好きな人々の恨みを買ってしまった企業という認識だった。
そのABCがビスポーク!
今までとは対極にあることをやろうとしている。
しかも国内の靴職人(責任者はリーガルのビスポークのチーフだった)を招いての本格的なもの。
ABCらしく廉価版オーダー(マッケイ)を用意していたが、品質を落とさずにオーダーの敷居を下げるという実績を充分にあげたと思う。
ABCマートの資本力があったから、あの価格であれだけ良い革を使えたのだと思う。
私はこのときはABCを見直していた。
ホーキンスやダナーの前科はあるが、ちゃんと靴作りを大切にしようという姿勢があるのだと。
ところがそれは数年で終わったわけだ。
儲からなかったから切ったのか?
元から数年の企画だったのか?
ABCの業績が苦しいから切ったのか?
SAION側が自ら出て行ったのか?
抱えていたバックオーダーはどうなったのか?
職人はどこに行ったのか(見習い弟子までいたのに)?
情報が全くない。
SAIONの職人たちが新たにどこかで工房を開いているのかもわからない。
確実なことは、この靴はもう手に入らないということである。
残念。

