買って1年も経っていないのに・・・。
上着のファスナーのスライダーが破損していた。
踏んづけたわけでもないし、車に轢かれたわけでもない。
自然に壊れた。
エレメント部分に破損は全く見られない。
スライダーだけである。
「スライダーだけ交換すればいい」そう思って
靴・かばん修理の店に電話を入れた。
「衣類なら、洋服直しに頼んでください。」
断られた。
洋服直しの店に電話した。
「スライダーの交換はできません。ファスナーの全交換になります。」
「壊れているのはスライダーだけなんですけど・・・。もったいないですよねえ。」
「服からファスナーを外して、新しいファスナーを縫い付けなおすしか方法はないんです。」
「わかりました・・・。料金はいくらになりますか?」
「ファスナー込みで2500円です。」
買いなおすよりはましだと思い、店に持っていった。
「電話した者ですが、これ、修理お願いします。」
「はい、料金は4500円になります。」
「えっ?電話では2500円って聞いたんですけど」
「それはズボンの方です。」
私はちゃんと上着と言ったんだが…
「4500円もするんですか?買った方がましですね。」
「まだ1年も経ってないのに、もったいない・・・・」
そんな私のつぶやきを聞いた店員の女性は
「スライダーの交換だけなら、ひょっとすると、向かいの『ほていや』さんでしてくれるかもしれませんよ。」
と教えてくれた。
商売っ気なし。困っている私を助けてくれた。良い人だ。
こういうところが日本人っていいよな。
そして向かいの「ほていや」へ・・・・
昔からこの場所に店を構える手芸屋の老舗中の老舗。
男のいる場所ではないような・・・・
「あのう、すいません、ファスナーのスライダーが壊れてしまったんですが、何とかなりませんか?」
齢70くらい女性が
「うちにある部品が合えば大丈夫ですけど」
「ファスナーの上の部分(スライダーがファスナーから外れるのを止める役目)が金具だったら、この金具を外して持ち手(スライダーのこと)を差し込むんですが・・・」
(下の画像参照)


左の画像=表側 右の画像=裏側
で、息子のジャージはどうかというと

・・・・・・プラスチックである。
「この部分が金具でないと、取った後に穴が開くんですよ。それでもいいですか?」
「穴が開くだけで修理はできるんですか?」
「見てくれは汚いですけど、持ち手が合えばできます。」
「合わなかったら、ファスナー全交換ですけど、うちの店がお願いしているところだったら1200円でできますよ。」
何と優しい・・・・
こういうところが日本人っていいよな。
「じゃ、お願いします。」
そして、見事にファスナーは再生した。


向かって左側のエレメントは、スライダー止めがプラスチックのまま。
右側のエレメントには、少しずれたところに金具が取り付けられた。


プラスチックのスライダー止めを外したところには穴が開いている。
確かに見てくれは悪いが、ファスナーが、いや、ジャージが再生したのだから全く問題はない。
「あのう、料金はいくらですか?」
「420円です。」
!!
当初予定の1/10以下である。
こういうところが日本人っていいよな。すごいよな。
感心した。
この店には、モノを大事にする精神と仕事がまだ残っている。
だが、多くの店は、壊れたら全交換なのである。
リペア費用が高くなれば、新しいのを買おうと考えてしまう。
ファスナー全交換でもモノを大事にしていることになるのだろうが、
この店は、さらにその上を行っている。
私はすでに大量消費時代にどっぷりと浸かっている人間だ。
しかし、モノを直す、モノを長く使うという気持ちはとても大切なものだと感じた。
私の両親の世代には、その精神が骨の髄まで染みついている。
私がどうしても両親に勝てない部分である。
話は靴に飛躍する。
そういう意味では、靴のリペアは、「もったいない精神」を体現している非常に立派な、有難い仕事ではないだろうか。